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神戸家庭裁判所 昭和41年(少ハ)3号 決定

本人 D・H(昭二〇・五・二〇生)

主文

上記D・Hを昭和四二年五月三一日まで医療少年院に継続して収容する。

理由

本件申請の要旨は「本人は昭和三九年一一月一〇日当裁判所において医療少年院送致の決定を受け、同月一二日京都医療少年院に収容され、昭和四〇年一一月九日少年院法一一条一項但書による収容期間を終了したが、精神に著しい故障が認められるとの理由で、同年一二月六日付で、昭和四一年一一月三〇日迄継続して収容する旨の決定を受け収容中のところ、本人は魯鈍級精神薄弱者で独立の社会生活を営むことは難しく、実父母は消息不明であり、現在京都府亀岡市所在の社会福祉法人松花苑に入所予定であるが、矯正施設に長期に亘り収容した精薄者を一般社会施設において指導保護するについては、本人の福祉のためにも、又その保護の万全を期するためにも、相当期間本人を保護観察に付する必要があると認められるので、更に六か月程度の収容継続を申請する」というにある。

そこで、京都医療少年院長石田博明、同少年院分類課長中西晴雪の各陳述、神戸家庭裁判所調査官藤井昌彦の調査報告書ならびに関係記録を総合すれば、D・Hが昭和三九年一一月一〇日当裁判所において医療少年院送致の決定を受けたことおよびその後の経過については上記申請理由のとおりであるところ、同人は窃盗・虞犯の前歴を有し、知能は魯鈍級にあるが、院内においては格別の事故はなく、花壇整備、ボール箱組立等の単純な作業に従事しており、昭和四一年一月一日には累進処遇上一級の上に進級したこと、又収容後は対人関係における協調性も徐々に芽生えてきたとはいえ、現状では未だ適切な保護者のもとで生活するのでなければ到底正常な社会生活を営みえない状況にあり、帰住先の環境いかんによつては不適応状態を起し再非行に走る危険も十分認められること、更に少年の実父は所在不明であり、実母は布施市に居住するが少年を引取る意思も能力もなく、他に本人の保護を委ねる適当な社会資源がないため、同少年院では昭和四〇年八月頃から宇治社会福祉事務所長に対し、再三に亘り収容依頼をなし種々折衝を重ねてきたところ、ようやく京都府亀岡市のコロニー松花苑が一応引取りの意向を示すに至つたのであるが、同苑も非行歴のある者の引取りには積極的ではなく、出院後の指導の万全を期し、本人を相当期間(最少限度六か月間を希望する)保護観察に付するため、収容継続の決定を得ることを引取りの条件としており、近畿地方更生保護委員会も右の条件が充たされれば仮退院を許可する見通しであることがそれぞれ認められる。

そこで以上の如き本人の知能、前歴、社会適応能力等の点を勘案すれば、本人に対し、何等の適切な保護を講ずることなく、直ちに一般社会に復帰させるならば、おかれた環境に適応できず窃盗その他の非行に陥るおそれが十分認められるのであつて、この点では本人の資質に照らし、未だ矯正の効果が十分達成されたとはいいきれない面が見受けられるのである。その意味で、本人にとつては出院後再非行に走る危険を防止し、在院中に芽生えてきた対人関係における協調性を向上させ、その健全な育成を期待するためにも、出院後の環境の調整をはかり、その保護について万全の措置を講ずる必要があると認められるところ、現在帰住先としてコロニー松花苑が本人を相当期間保護観察に付するため収容継続の決定を得ることを条件に、これを引取る意向を有していること、保護委員会も右の条件のもとでは仮退院を許可する見通しであることはいずれも前記認定のとおりである。

よつて以上の諸点を考慮すれば、本件の如き事案については、本人の矯正保護の目的を達成するために、これを再度継続して収容することも止むを得ないものと認められるのであつて、その期間は仮退院後の保護観察期間および上記受入施設側の希望をも考慮して六か月、即ち昭和四二年五月三一日までと定めるのを相当と認める。

なお、この収容継続決定は、本人の出院後の保護を全うする趣旨でなしたものであるから、速かに仮退院の手続がなされることを希望する旨付言する。

よつて少年院法一一条、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 井上広道)

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